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東京地方裁判所 平成7年(ワ)4897号 判決

原告 日本百貨通信販売株式会社

右代表者代表取締役 杉山治夫

被告 金丸研

主文

一  被告は、原告に対し、金九五万円及びこれに対する平成二年三月一七日から平成七年三月八日まで年一割五分の割合による金員及び平成七年三月九日から支払済まで年三割の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

原告は、被告に対し、昭和六〇年二月八日に一〇〇万円を以下の約定の下に貸し渡した(以下「本件貸付」という。)。

『利息月三分、損害金を出資法最高の割合による金員とし、支払は昭和六〇年三月より自由返済とし、毎月八日までに利息分以上を支払うよう努力し、昭和六〇年三月八日までに支払う。元金及び利息が支払日までに全額完済できなくなる場合には、その残額の支払期限を猶予し、自動延長して、昭和六五年(平成二年)三月八日とし、なおかつ完済できなくなる場合には、更にその後五年間に限り自動的に支払を猶予し、延長した期限の昭和七〇年(平成七年)三月八日を最終弁済期限とする。』

被告は、原告に対し、五万円を支払ったのみで残金を支払わない。

二  被告の主張

本件貸付金は、最初の弁済期である昭和六〇年三月八日から五年以上経過しているので、時効にかかって消滅しており、被告は、右時効の利益を援用する。

なお、本件貸付中の弁済期の自動延長の特約(以下「本件特約」という。)は、時効の延長契約に当たり契約時の時効の自動延長契約は無効である。

三  争点

弁済期の自動延長特約と消滅時効の成否

第三争点に対する判断

一  民法一四六条は時効利益の事前放棄を禁止しており、右規定の趣旨に照らせば、時効期間の伸長や時効の中断・停止排除等の事前合意も許されないものと解するのが相当である。

しかし、本件特約は、弁済期自体を自動的に猶予するものであり、本来、弁済期の設定や猶予等は、当事者間の自治に委ねられているものであるところ、右猶予期間中は、そもそも原告は被告に対して元本の支払を請求することが許されないことになり、被告は右弁済期猶予の利益を受けているのであるから、本件特約と時効利益の事前放棄や時効期間の伸長、時効の中断・停止排除等の事前合意を同一視することはできず、本件特約により結果的に時効の起算点が遅くなるとしても、これは右弁済期猶予の当然の効果であり、民法一四六条の趣旨に反するものとは認められない。

よって、本件貸付における貸付元本の時効の起算点は最終弁済期日である平成七年三月八日を基準として決せられるべきものであり、被告による消滅時効の主張は失当である。

二  以上によれば、本件貸付に基づき残元本九五万円並びにこれに対する平成二年三月一七日から平成七年三月八日まで〔本訴提起時(平成七年三月一六日)から遡ること五年以内の期間〕利息制限法所定の制限内の年一割五分の割合による利息及び最終弁済期日の翌日である平成七年三月九日から支払済まで利息制限法所定の制限内の年三割の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野雅之)

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